こんにちは、コーチ&コンサルタント&カウンセラーMOMO高橋澄子です。
3月11日は東日本大震災から1年目でした。
大震災で被災者のみなさんは、
・家族や友人・知人などの大切な人たち
・自分の家やそこで営まれていた生活
・衣服、所持品、思い出の品
・震災の影響で、続けられなくなった仕事や役割
・慣れ親しんだ建物や町並み
などの多くの大切なものを失なう経験(喪失体験)をされています。
誰でも大切なものを失うことは大変辛いことです。
人は愛着を持っていた対象を失った辛さから、一時的に外の世界への興味を失い悲嘆に暮れ失ったものへの追想に没頭します。
そして様々なプロセスをへて、徐々に失った現実を受け入れ、悲嘆の世界から抜け出していくのです。
喪失体験を受け入れていくこの心理的な過程を、S.フロイトは喪(悲嘆)の仕事と呼びました。
愛着理論で知られる精神分析学者ボウルビィは、喪(悲嘆)の仕事を4段階に分けて説明しています。
1.無感覚・感覚の危機の段階:
喪失を知ってから数時間~1週間ほど続くとされる無感覚の時期(急性ストレス反応の一種)。
激しい衝撃に呆然とし、失ったことを事実として受け止められない。信じられない。この状態が、苦悩や怒りの爆発を引き起こすこともある。急性のストレス反応を起こします。
2.思慕と探求・怒りと否認の段階:
喪失を事実と受け止め始めることで強い思慕の情に駆られ深い悲嘆が始まります。喪失を受け止め始めたとしても、まだ強い愛着が続いて居る段階です。
まだ存在していると錯覚して探し求めたり、実在する対象に対する行動を行ったりする、喪失の事実を否認する行動が見られます。
強い愛着と否認の間でフラストレーションが高まり、怒りに転じることもあります。
3.断念・絶望の段階:
愛着をもっていた対象の喪失を現実のものと受け入れ、愛着を断念します。
対象に愛着を持つことで支えられていた心のあり方や生き方が意味をなさなくなるため、絶望や失意といった感情に支配されます。
4.離脱・再建の段階:
失った対象に対してだんだんと穏やかで肯定的な感情(思い出)が生まれ、場合によっては新しい愛着の対象が生まれます。
新しい人間関係や環境の中で、心と社会の中での自らの役割を、再建しようとする努力が始まります。
被災者の心理状態は、このプロセスのどこかにあります。
喪(悲嘆)の仕事の4つの段階を1つ1つクリアしていけば、悲嘆から回復することができます。
しかし、各段階は重なり合い、からみあって進行していきます。
また喪失感の大きさや個人の背景などによって、進み方や要する時間には大きな差があります。
ですから今のタイミングで、喪失を受け入れ明日を考える方がいらっしゃる一方で、まだまだ悲嘆から抜け出せない方もがいて当然なのです。
本来、人間には喪(悲嘆)の仕事をこなせる力があります。しかし、喪(悲嘆)の仕事がどこかの段階で停滞してしまうと、悲嘆が病的なものへと変化し心の病を引き起こす恐れがあります。
ですので悲嘆が長期間にわたり深刻な状態が続くようでしたら、ぜひとも心理的な支援を受けてください。
喪(悲嘆)の仕事の心理的支援はグリーフ(悲嘆)・ケアと呼ばれています。
欧米では、グリーフ・ケアの専門家としてグリーフ・カウンセラーがいます。
日本では、グリーフ・カウンセラーと名乗っている方はまだ少ないので、心理カウンセラーやセラピスト(心理療法家)を頼ってください。
深刻な状態でないときには、喪(悲哀)の仕事の心理的なプロセスをスムーズに進めるために、自分でグリーフ・ケアを行う、友人や知人に手助けを頼むことが役に立ちます。
専門家ではなくともできるグリーフ・ケアのポイントは、別の記事でご紹介します。
参考文献:小此木啓吾「対象喪失」中公新書
ロバート・A・ニーメヤ-「大切なものを失ったあなたに」春秋社
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